3/24/2010

【書評】インターネット新世代---村井純

著者の村井純さんは、日本におけるインターネットの父と言われている。Wikipediaの経歴によると、自分の大学・学部の先輩に当たるようで、嬉しく感じる。ちなみに梅田望夫さんも同じ大学・学部。

村井純さんは情報工学の技術者なので、本書も専門であるインターネットのいまの技術を一般の人にも分かりやすく説明した内容になっている。

どのような技術やアーキテクチャで情報が動いているのかを理解することが可能な反面、ツイッターなどのソーシャルメディアやインターネットのビジネスに関する記述はほとんどない。

3/08/2010

【書評】世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか

去年の総選挙の直後、テレビ番組で竹中平蔵氏が「自民党のオウンゴール」と言っていた。

竹中氏が言うと世間的にはかなり割り引かれて聞こえるかも知れないが、そのオウンゴールを世論調査や選挙結果などから検証したのが本書だ。

小泉首相時代の勝因を「自民党をぶっ壊す」と言って都市部を掘り起こしたことではなく、「小泉氏自身の人気」ととらえ、安倍氏以降は古い自民党に戻ってしまったことが自民党のオウンゴールだった。


この本の帯には「メディアや政治評論家にだまされるな」とあるが、自分はそもそもテレビの政治報道は見ていない。佐々木俊尚さんの新著のタイトルにもなっている(まだ読んでいない)が、ブログやツイッターの方が掘り下げて冷静な議論が繰り広げられている。

3/06/2010

【書評】異業種競争戦略ーーー内田和成

本書のエッセンスは、一番最後に著者が引用したフランスの文学者マルセル・プルーストの言葉にある。

 本当の発見の旅とは、新しい土地を探すことではなく、新しい目で見ることだ。

異業種と戦わなければならない例は数多い。本書でも、リテールバンキングやカメラ、中食、旅行など様々な業種で異業種との戦いが起こっていると解説している。

つまり、どんな敵がどのような戦い方で挑んでくるか分からない時代なのだ。そのような状況で必要なものが「新しい目」なのだ。

【書評】ルポ貧困大国アメリカーーー堤未果

ただ売れているからといって、手にとってみると全然オススメ出来ない本だった。よって、リンクも無し。

タイトル通り、内容は米国の貧困層のルポになっている。そこまでは、いい。ルポの内容自体は事実だろう。

だが、新自由主義批判などは左翼そのものだ。著者はそのうち、社民党などから国会議員に立候補するのではないだろうか。

新自由主義の民主主義では「国民はなるべくものを考えない方が都合がいい」と述べているが、これは真逆で一人ひとりが利益を求め価格などを見て自由に行動するからこそ、経済が成長し富の再分配も出来る、となるのだ。

社会主義を訴える人は、どの年代どの国でも必ず存在すると思うので、この種の本が出ることは別にいいが、人びとが扇動されないことを願いたい。

【書評】戦後日本経済史ーーー野口悠紀雄

教科書的な経済史ではなく、バブル崩壊以降なぜ日本経済は「失われた時代」を過ごさなければならなかったのかを、戦後ではなく「戦時経済体制」にあると解説する。

著者の野口悠紀雄さんは、東大を卒業後大蔵省に入省しているため、そのときの記憶も混ざっており、その点も考えると「経済史」というタイトルは誤解を招くかもしれない。

終戦直後の経済体制といえば、城山三郎さんの「官僚たちの夏」が思い浮かぶ。自分はもちろん生きていなかったので、どれほど正しく記述されているのか分からないが、「日本の産業を外資から守り、育成する」ことが通産官僚の頭の中にあったのはおそらく事実だろう。

通産省が「育成」しようとした産業は、結果的に国際競争力を身に付けられなかったことはマイケル・ポーターの「日本の競争戦略」で実証されている。重要なのは、守ることではなく「海外の企業と対等に戦える条件を揃えること」なのだ。

そもそも、競争力のある企業からしたら「政府に守ってもらいたい」などは思っていないはずだ。逆に、日本航空など競争力がなくなった(もともと無かったと言った方が正しいのかもしれない)企業が政府に助けを求めている。やはり、日本航空は破綻させたほうがよかったと思う。

3/02/2010

【書評】資本主義と自由ーーーミルトン・フリードマン

読み終えて驚くことが、この本が約50年前に書かれたということだ。

50年前は自分の親が子どもだった時期だが、そのときからフリードマンは「通説を疑うこと」の大切さを教えてくれている。

本書はタイトルの通り、資本主義と自由について書かれている。自由がいかに大切か、市場や競争を通じていかに人びとに恩恵が行き渡るかを生き生きと書いてある。

しかし、この本が50年前に書かれたことを考慮すると、資本主義や自由だけでなく、(フリードマンが意図したかどうかは分からないが)もうひとつの大切なメッセージが浮き上がってくるように思える。

それは「通説を疑うこと」である。

1990年前後に冷戦が集結し、ソ連の崩壊・東西ドイツの統合があり、世界最大の人口を有する中国も開放政策により市場経済を取り入れるようになった。
しかし、共産主義や全体主義を声高に主張する人は数少なくとも、誰もが資本主義を称賛しているわけでない。

さらに、金融危機が起こって、「市場原理主義」という言葉が独り歩きして批判されている。そして、市場の失敗を正すために大規模な政府の介入が容認される。

だが、池尾和人さんも言うように「問題なのは市場経済であることではなく、その質が低いことにある」のだ。
この本を読むと、「政府の介入容認」というそれらしい通説がいかに非効率かがよく分かる。

3/01/2010

【書評】日本の競争戦略ーーーマイケル・E・ポーター/竹内弘高

先日まで10日間ほど、ヨーロッパを旅行してきた。旅行中に強く感じたのが、「日本の存在感の無さ」だ。

日本で日本人に、競争力のある産業は?と聞けば、自動車と電機と答える人が多いと思う。
しかし、ヨーロッパの街には日本車はほとんど走っていなかった。もちろん、皆無ではない。トヨタやホンダ、日産などは多少はある。しかし、日本におけるメルセデス・ベンツやBMWなどヨーロッパ車の存在感と、ヨーロッパにおける日本車の存在感は比べ物にならなかった。

また、テレビなどの家電製品でも日本の存在感は薄い。泊まったホテルはブラウン管のテレビも多かったが、日本の製品を見ることはなく、街でも液晶ディスプレイなどは韓国のサムスンかLG電子製が多かった。

本書は10年ほど前に書かれた本なので、このような最近の事情は考慮されていない。

本書の秀逸な点は、成功した産業の成功要因を述べているのではなく、成功産業と失敗産業と並べ、それらに対する政府の政策や規制を比べていることだ。

そこから導き出される答えは、保護よりも競争である。特定の産業を保護しようとすればするほど、市場は歪み競争力を失ってしまうのだ。

そもそも、誰も絶対に成功する方法なんて分からないのかもしれない。効率的市場仮説という理論があるが、それと同様に誰もが「成功する」と思われている方法論など実は全て織り込み済みなのかもしれない。

逆に、「なぜ失敗したのか」考えるべきなのだ。これは当たり前のようで、意外と出来ていない。サクセス・ストーリーは面白いし、自分もそうなりたいと思う。だが、失敗から目をそらさず、なぜ失敗したのか考える。辛いかもしれないが、今の日本には必要なことだと思う。