3/24/2010

【書評】インターネット新世代---村井純

著者の村井純さんは、日本におけるインターネットの父と言われている。Wikipediaの経歴によると、自分の大学・学部の先輩に当たるようで、嬉しく感じる。ちなみに梅田望夫さんも同じ大学・学部。

村井純さんは情報工学の技術者なので、本書も専門であるインターネットのいまの技術を一般の人にも分かりやすく説明した内容になっている。

どのような技術やアーキテクチャで情報が動いているのかを理解することが可能な反面、ツイッターなどのソーシャルメディアやインターネットのビジネスに関する記述はほとんどない。

3/08/2010

【書評】世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか

去年の総選挙の直後、テレビ番組で竹中平蔵氏が「自民党のオウンゴール」と言っていた。

竹中氏が言うと世間的にはかなり割り引かれて聞こえるかも知れないが、そのオウンゴールを世論調査や選挙結果などから検証したのが本書だ。

小泉首相時代の勝因を「自民党をぶっ壊す」と言って都市部を掘り起こしたことではなく、「小泉氏自身の人気」ととらえ、安倍氏以降は古い自民党に戻ってしまったことが自民党のオウンゴールだった。


この本の帯には「メディアや政治評論家にだまされるな」とあるが、自分はそもそもテレビの政治報道は見ていない。佐々木俊尚さんの新著のタイトルにもなっている(まだ読んでいない)が、ブログやツイッターの方が掘り下げて冷静な議論が繰り広げられている。

3/06/2010

【書評】異業種競争戦略ーーー内田和成

本書のエッセンスは、一番最後に著者が引用したフランスの文学者マルセル・プルーストの言葉にある。

 本当の発見の旅とは、新しい土地を探すことではなく、新しい目で見ることだ。

異業種と戦わなければならない例は数多い。本書でも、リテールバンキングやカメラ、中食、旅行など様々な業種で異業種との戦いが起こっていると解説している。

つまり、どんな敵がどのような戦い方で挑んでくるか分からない時代なのだ。そのような状況で必要なものが「新しい目」なのだ。

【書評】ルポ貧困大国アメリカーーー堤未果

ただ売れているからといって、手にとってみると全然オススメ出来ない本だった。よって、リンクも無し。

タイトル通り、内容は米国の貧困層のルポになっている。そこまでは、いい。ルポの内容自体は事実だろう。

だが、新自由主義批判などは左翼そのものだ。著者はそのうち、社民党などから国会議員に立候補するのではないだろうか。

新自由主義の民主主義では「国民はなるべくものを考えない方が都合がいい」と述べているが、これは真逆で一人ひとりが利益を求め価格などを見て自由に行動するからこそ、経済が成長し富の再分配も出来る、となるのだ。

社会主義を訴える人は、どの年代どの国でも必ず存在すると思うので、この種の本が出ることは別にいいが、人びとが扇動されないことを願いたい。

【書評】戦後日本経済史ーーー野口悠紀雄

教科書的な経済史ではなく、バブル崩壊以降なぜ日本経済は「失われた時代」を過ごさなければならなかったのかを、戦後ではなく「戦時経済体制」にあると解説する。

著者の野口悠紀雄さんは、東大を卒業後大蔵省に入省しているため、そのときの記憶も混ざっており、その点も考えると「経済史」というタイトルは誤解を招くかもしれない。

終戦直後の経済体制といえば、城山三郎さんの「官僚たちの夏」が思い浮かぶ。自分はもちろん生きていなかったので、どれほど正しく記述されているのか分からないが、「日本の産業を外資から守り、育成する」ことが通産官僚の頭の中にあったのはおそらく事実だろう。

通産省が「育成」しようとした産業は、結果的に国際競争力を身に付けられなかったことはマイケル・ポーターの「日本の競争戦略」で実証されている。重要なのは、守ることではなく「海外の企業と対等に戦える条件を揃えること」なのだ。

そもそも、競争力のある企業からしたら「政府に守ってもらいたい」などは思っていないはずだ。逆に、日本航空など競争力がなくなった(もともと無かったと言った方が正しいのかもしれない)企業が政府に助けを求めている。やはり、日本航空は破綻させたほうがよかったと思う。

3/02/2010

【書評】資本主義と自由ーーーミルトン・フリードマン

読み終えて驚くことが、この本が約50年前に書かれたということだ。

50年前は自分の親が子どもだった時期だが、そのときからフリードマンは「通説を疑うこと」の大切さを教えてくれている。

本書はタイトルの通り、資本主義と自由について書かれている。自由がいかに大切か、市場や競争を通じていかに人びとに恩恵が行き渡るかを生き生きと書いてある。

しかし、この本が50年前に書かれたことを考慮すると、資本主義や自由だけでなく、(フリードマンが意図したかどうかは分からないが)もうひとつの大切なメッセージが浮き上がってくるように思える。

それは「通説を疑うこと」である。

1990年前後に冷戦が集結し、ソ連の崩壊・東西ドイツの統合があり、世界最大の人口を有する中国も開放政策により市場経済を取り入れるようになった。
しかし、共産主義や全体主義を声高に主張する人は数少なくとも、誰もが資本主義を称賛しているわけでない。

さらに、金融危機が起こって、「市場原理主義」という言葉が独り歩きして批判されている。そして、市場の失敗を正すために大規模な政府の介入が容認される。

だが、池尾和人さんも言うように「問題なのは市場経済であることではなく、その質が低いことにある」のだ。
この本を読むと、「政府の介入容認」というそれらしい通説がいかに非効率かがよく分かる。

3/01/2010

【書評】日本の競争戦略ーーーマイケル・E・ポーター/竹内弘高

先日まで10日間ほど、ヨーロッパを旅行してきた。旅行中に強く感じたのが、「日本の存在感の無さ」だ。

日本で日本人に、競争力のある産業は?と聞けば、自動車と電機と答える人が多いと思う。
しかし、ヨーロッパの街には日本車はほとんど走っていなかった。もちろん、皆無ではない。トヨタやホンダ、日産などは多少はある。しかし、日本におけるメルセデス・ベンツやBMWなどヨーロッパ車の存在感と、ヨーロッパにおける日本車の存在感は比べ物にならなかった。

また、テレビなどの家電製品でも日本の存在感は薄い。泊まったホテルはブラウン管のテレビも多かったが、日本の製品を見ることはなく、街でも液晶ディスプレイなどは韓国のサムスンかLG電子製が多かった。

本書は10年ほど前に書かれた本なので、このような最近の事情は考慮されていない。

本書の秀逸な点は、成功した産業の成功要因を述べているのではなく、成功産業と失敗産業と並べ、それらに対する政府の政策や規制を比べていることだ。

そこから導き出される答えは、保護よりも競争である。特定の産業を保護しようとすればするほど、市場は歪み競争力を失ってしまうのだ。

そもそも、誰も絶対に成功する方法なんて分からないのかもしれない。効率的市場仮説という理論があるが、それと同様に誰もが「成功する」と思われている方法論など実は全て織り込み済みなのかもしれない。

逆に、「なぜ失敗したのか」考えるべきなのだ。これは当たり前のようで、意外と出来ていない。サクセス・ストーリーは面白いし、自分もそうなりたいと思う。だが、失敗から目をそらさず、なぜ失敗したのか考える。辛いかもしれないが、今の日本には必要なことだと思う。

2/28/2010

【書評】アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界



最後の4冊目。
一番最後に読んだからか、この本が一番印象に残っている。

アダム・スミスと言えば「国富論」と「見えざる手」だ。だが、国富論の前著「道徳感情論」のエッセンスと、スミスが生きた時代の背景を知ると、より深い示唆を得ることが出来る。

道徳感情論は「人間の心」に焦点を当て、人にとっての同感や幸福、野心などに言及している。どのようなメカニズムで人々は同感したり、称賛や非難をしたりするのかなどを研究している。

このような「道徳感情論」という土台があり、「国富論」も当時のイギリスという「一国」に限らず普遍的に全ての国々に当てはまる提言をしているからこそ、現代までその名が知れ渡っているのだと著者は指摘している。

【書評】ゲーデルの哲学ー不完全性定理と神の存在論



3冊目。
最近まで、ゲーデルという人物についてはよく知らなかった。何処で聞いたかも覚えてないし、なんとなく耳に残っているくらいだ。

本書の帯には「これで不完全性定理がわかる!」とあるが、一回読み通した自分は「なんとなくわかったような、よくわかっていないような」感覚にある。自分の中で上手く反芻できておらず、ぼんやりイメージは出来ているが他人に説明しようとすると上手く説明出来そうにない、そんな感覚だ。

最近はこのような類の、科学者の本や科学の本に興味がある。日本で理系の勉強をしてきた身として文系より有利だと思うのが、物理や化学の基礎が頭に入っていることだと思う。ただ、その分歴史などは高校受験レベルしかないと思うので、歴史は一度体系的に勉強してみたい。

【書評】戦略的思考の技術ーゲーム理論を実践するーーー梶井厚志



こちらが2冊目。
あと1ヶ月で大学生活が終わってしまうが、自分の専攻は広く言えば管理工学、狭く言えばゲーム理論になるのだろうか。専攻と言えるほど専門的に研究したわけではないが。

ゲーム理論を学んだことのある人にとっては、本書は物足りない印象を受ける。そもそも、そのような人々をターゲットにしている訳ではないと思うが。

ただ、ゲーム理論に特有の用語(囚人のジレンマ、など)を使わずに分かりやすく説明しているので、NHKの「出社が楽しい経済学」のように誰にでも分かる内容になっている。

【書評】現代の金融入門[新版]ーーー池尾和人



ヨーロッパ旅行で、合計4冊の新書を読んだ。まず1冊目がこの本。96年に出された旧版も数日前に読んだが、新版もスッキリとまとまっていて読みやすい。

金融危機が起き世界が不況に陥るなかで、証券化などの「金融技術」・「金融工学」などの負の側面が(特に日本で)独り歩きしてしまっている感がある。

しかし、池尾和人さんは証券化を自動車に例える。
自動車は基本的に生活を快適・便利にしてくれるものであり、もし人命が失われたとしても、自動車技術が「悪玉」になることはない。交通法規やインフラ整備を調整すべきである。
これと同様に、証券化などの金融工学も、それ自体ではなく規制監督やインフラ面を整備するべきなのだ。

2/14/2010

【書評】ウェブ時代をゆく─いかに働き、いかに学ぶかーーー梅田望夫



インターネットの発展とともに、リアルな世界と様々な軋轢や齟齬が生じるようになってきた。ただ、著作権やプライバシーなどの課題よりも「新たなテクノロジーの持つ可能性」にもっと注目していきたい。自分はずっと、そう考えてきた。

自分の著作権となるべき創作物もないし、プライバシーを犯されて被害を受けたこともない。いわゆる迷惑メールが来ることはあっても、自分にとっては大した問題ではない。

ただただ、「こんなことが可能に!」という光に注目し、自分の生活をどう変えてくれるのかを想像し、実際に使ってみることが楽しいのだ。

本書の著者である梅田望夫さんも「オプティミズム」を貫くことを宣言しているが、その点には自分も共感する。
そして、本書はその「オプティミズム」を貫くことを後押ししてくれる。ビジネスの側面は少ないが、貨幣以外にも価値があるのがウェブなのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いま自分はこうしてインターネットのブログを通じて、情報を発信している。厳密には発信というより、自分のメモに近いかも知れない。

おそらく、日本にいたら、PCや携帯端末などを通じてインターネットに触れない日は一年に一日もないだろう。それはそれで、最新の情報を常にキャッチし発信できる、またコミュニケーションが容易になったことを意味するが、この生活を10日間あまり止めてみようと思う。

具体的には、ただ海外に行くだけ。しかし、PCは持っていかないし、携帯端末もほとんど触らないようにする。また当然、TVや新聞など日本語メディアには触れない。日本語もほとんど話さない。

社会人になっても、海外に行くチャンスはある。ただ、ビジネスで行くとしたらPCなどを持っていくだろうし、家族で行くとしたら日本語を話すことになる。

だから、学生最後のこの機会に「インターネット無し」「日本語無し」の非日常に敢えて飛び込み、五感で色々なことを考えてみたいのだ。

【書評】現代の金融入門ーーー池尾和人



その名の通り、金融の入門書になっている。4月から金融機関に就職するということもあって、読んでみた。最近、新版が発売されたので合わせて購入した。新版の方は旅行に持っていこうと思う。

「そもそも金融とは」や「金融機関(主に銀行)の役割・機能」について平易に書かれているため、金融機関の関係者だけでなく、経済活動に関わる人なら(つまり、どんな人でも)読んで損はない本である。
出来れば、今の自分のような就職前の大学生は読んでおくべきだと思う。さらに言うなら、大学などの教育機関での金融教育が必要だと感じた。

運用各社、相次ぎ大学に投資講座---NIKKEI NET

このようなニュースが昨日あったが、経済活動にとって切って切り離せない「金融」については「資産運用は不労所得」「金を右から左に流すだけ」などと思わないように、学生のうちから教育を施す必要がある。

2/08/2010

【書評】Googleの正体ーーー牧野武文



「Googleはなぜ、利益の出ないサービスを開発するのか」という問いは誰しもが思うことだ。そんな疑問に本書は明快に答えてくれる。

Googleについて考えるときにいつも思うのが、「インターネットを使う人が増えれば増えるほど、Googleは成長する。Googleの成長がさらにインターネット人口を増やし、それによってさらにGoogleは成長し・・・」という好循環を(結果的にであるが)作り出したことがGoogleの秀逸さである、ということだ。

地球上でインターネットを使う人は、いま現在全人類の半分以下であり、ほとんどの人は先進国に住んでいる。新興国などに住むその他の大勢の人々のための、AndroidでありChromeOSなのだ。先進国ではどうしても対Microsoftや対Appleという軸でGoogleを見がちだが、まだインターネットに触れていない人々をターゲットにしているとなればGoogleのサービス全てが理にかなっていることが理解出来る。

これまでも色々Google本は読んできたが、「外から見た」本としては本書の完成度は高いし、読みやすい。一方で「内から見た」Googleを知りたければ「プラネット・グーグル」をお薦めする。

【書評】世界を知る力ーーー寺島実郎



ヨーロッパ旅行に行くことが決まったと父に知らせたら、翌日渡されたのが本書である。書店で何回か目にはしていたが、レジには持っていかなかった。タイトルで大風呂敷を広げる本はなかなか読む気にならないのだ。

だが、父から薦められて、無料で譲り受け(買ったとしても新書なので800円足らずだが)、ヨーロッパ旅行に行くということだったので読んでみた。

著者の寺島実郎さんは、さすがは三井物産で何十年も働いてきただけあって、歴史への造詣が深い。第一章の「日本とロシア」や、第二章の「大中華圏」、「ユダヤ人ネットワーク」の話などはなかなか面白かった。

ただ、第三章以降の日米関係やこれからの日本の話になると、少し首を傾げてしまった。
寺島さんは「21世紀に入っても、日本はれい線型の世界認識から抜け出せず、米国追従主義に陥りイラク戦争へ加担、金融資本主義の歪みまで共有してしまった。」「日本国民は、小泉構造改革で失われたものを見つめ、競争主義・市場主義を第一義とする自民党政治にノーを突きつけた。」と述べている。

この記述には同意出来ない。
邦銀はサブプライムローンなどを組み込んだ証券化商品にはほとんど手を出していなかった(というより、手を出す技術がなかった)。09年度決算で赤字に陥ったのは、証券化商品の値下がりよりも株安による保有株の値下がりや、景気後退による貸倒引当金の積み増しが大きかった。
また、そもそも自民党が
競争主義・市場主義を第一義としていたかどうかには疑問が残る。昨年の衆院選は競争主義へのノーよりも、自民党自身のオウンゴールによる国民の不信感が強いと思う。

また、「空虚なマネーゲーム」から「産業と技術の実体性」への回帰を訴えているが、これも同意出来ない。産業や技術を否定するつもりはないが、日本ではマネーゲーム自体が歪んでいるのではなく、資本市場が整備されていなく既得権益が分厚すぎるため、金融の役割が歪められてしまっているのだ。これでは、「マネー資本主義」という「マネーがない資本主義ってなんだ」と頭の上に???が浮かぶようなタイトルが付く番組を放送するNHKと変わらない。

2/07/2010

【書評】本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術ーーー成毛眞



初めて成毛眞さんの本を読んだ。成毛眞さんはマイクロソフト日本法人の元社長で、堀江貴文さんによると随分モーレツ営業をしていたらしい

成毛眞さんの主張は明快で「人と同じことをするな!そのために本を読め!それも様々なジャンルの本を同時に!」ということだ。人生は道楽と言う成毛さんにとって、人と同じ「フツー」の人生など苦痛以外の何ものでもないのだろう。まったく、同感だ。

「人と同じことをするな」というのは、古今東西色々なところで聞く。逆に言うと、それだけ人は他人と同じことをしがちで、同じことをしていることに安堵感を得ているということだ。



「人と同じことをするな」と聞いて思い出すのが、堀紘一さんだ。本書は、そのままタイトルになっているが、堀さんも「本を読む」ことを随所で薦めている。

上記の2冊とも、かなり読みやすい。文章でも口頭でも、読みやすく伝わりやすい言葉を使うためには本を読むことから始めるべきなのだろう。

2/04/2010

【書評】モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本---野口悠紀雄



本書のamazonでの書評欄はなかなか面白いことになっている。


8件のレビューのうち、★×4以上が5件と★×2以下が3件で中間は無し。この評価を分けたものは金融危機だ。

評価が高い人は「日本の問題は構造的で、これからもモノづくりで成長出来る訳ではない。金融危機が起こったからからといって、金融やIT産業を放置してはならない理由にはならない。」と言っていて、

評価が低い人は「金融やITに傾斜した国々の惨状を見れば、野口氏の提言がいかに危険か分かる。」と言っている訳だ。

個人的には前者とほぼ同意見だ。端的に言って、中国で作ればいいものを日本で作る理由は乏しいだろう。

 

また、この2冊を読んでいても、日本の製造業の競争力がいかに失われつつあるかが分かる。もちろん、日本の全ての製造業がダメになっていくとは思わない。
中国などに出来ない
ビジネスモデルを構築出来た企業は生き残っていくだろう。もしくはアップルなどのように、マーケティングやデザインなどに特化した企業も出てくるかもしれない。

一つだけ間違いないのは、新興国で出来ないことをやらなければ日本全体が沈没してしまうということだ。
確かにITバブルははじけ、金融危機も起こった。ITや金融に脆弱性があるのは明らかだが、ITによる生産性の向上や金融による資本の流動化こそ、これからの日本に必要なことなのだ。

1/31/2010

【書評】ナビゲート!日本経済ーーー脇田成



本書において著者は日本のマクロ経済について、様々な「例え」を用いて説明している。そのため、専門家の解説というよりも大学教授の授業に近い「砕き方」になっている。

マクロ経済学に関しては、斎藤誠さんの著書も買ったのでこの本と合わせて学んでいきたいが、本書で唯一腑に落ちなかった部分がある。

 少子化の回避に成功すれば、財政危機などほとんどの問題は
 自動的に解決しますが、失敗すればたいへんな調整を
 強いられます。しかし、(中略)多くの人々が少子化対策を
 バカにしがちです。

少子化に関しては野口悠紀雄さんも「資本開国論」で述べていたが、たとえ「出生児数が2倍になるというカミカゼ」が吹いたところでも、その実質的な効果が年金財政や労働力不足などに対して現れるのは2050年頃なのだ。

この命題は少子化対策が叫ばれるなかでは違和感があるが、少し考えてみると当然のことだ。そもそも生まれてくる子どもの数が増えるということは1歳以下の子ども数が増えることを意味する。
もし、いま出生児数が劇的に増えても、その世代が生産年齢人口に数えられるのは15年後なのだ。その間、依存人口比率は増え続ける。また、15年経ったら問題が解決するわけでもなく、徐々に生産年齢人口が増えていくだけなので、現在の推計と比べて実質的に効果が現れるのは約40年後なのだ。

野口悠紀雄さんも結論づけているように、今さら出生率を引き上げても経済問題に対しては「手遅れ」なのだ。もちろん、子育て支援などが無意味という訳ではないが。

【書評】すべては一杯のコーヒーからーーー松田公太



表紙のデザインからも分かる通り、タリーズコーヒージャパンの起業ストーリーである。ただ、起業に関してだけ書かれている訳ではなく、著者の生まれてから本書を書く2002年までの軌跡が綴られている。

どんな人々と関わってきたのか、どんな取引先とどのような交渉をしてきたのか、などが細かく書いてあるのはファーストリテイリングの柳井正さんの「成功は一日で捨て去れ」と同じ印象を受ける。

この類の著書を読んでいつも思うことが、「実は著者自身が忘れたくない経験、忘れてはならない失敗」などを敢えて赤裸々に描き、自分を奮い立たせているのではないか、ということだ。誰かに思いを伝えたい、というよりも自分を浮かれさせないために今までの経験を振り返っているように感じる。もちろん、真相は著者本人も聞かなければ分からないが。

そして、誰かに伝えるためよりも自戒のための本の方が得てして読んでいて面白い。松田公太さんの著書は「仕事は5年でやめなさい。」に続いて2冊目だが、どちらかを読むなら
そういった意味でも「すべては~」の方をおすすめする。

1/30/2010

【書評】資本開国論―新たなグローバル化時代の経済戦略---野口悠紀雄



野口悠紀雄さんの著書は初めて読んだが、理路整然としていて無駄がほとんどない印象を受けた。

本書が世に出たのは2007年5月で、そのときは安倍内閣だった。自民党政権は福田内閣・麻生内閣へと引き継がれ去年の9月に政権交代し、民主党の鳩山内閣が生まれた。07年には予期出来なかったかもしれないが、この国は1年に1回首相が変わっていっているのだ。いまの鳩山首相も、数年後には「変なこと言ってたお坊ちゃま」としか記憶されていないかもしれない。

しかし、総理大臣とは違って日本の産業構造はほとんど変化がない。この本の次の著書のタイトルは「モノづくり幻想が日本経済をダメにする」だが、3年後の今でも「モノづくり」信仰は非常に根強い。むしろ、08年の金融危機を経て、「金融=強欲」というイメージが広がったようにも思える。

本書ではイギリスやアイルランドのように、日本も資本開国をして企業を国際競争にさらすべきだと論じている。サバイバルとしての金融にも書かれていたが「外資=ハゲタカ」というイメージも未だに日本に根強いと感じる。
つい最近でも日本航空にデルタ航空が出資する、というニュースがあったときも(確かヤフーニュースのコメント欄に)「また日本の企業が外資に食われる」というコメントがあり、さらに「そう思う」に多くの票が集まっていた。

日本には変えなければならないことが非常に多い。その最たるものが産業構造だと思う。


この表が事実かどうか知らないが、10年後もこの序列・水準を維持するのは間違いなく不可能だと思う。序列だけを維持することは出来るかも知れないが、それは水準が下がるorインフレが起こるときしかない。

社会人になるまであと2ヶ月。決して会社には安住せず、世界の流れを見て生きなければならないと強く思う。

【書評】生活保護VSワーキングプア---大山典宏



生活保護や派遣切りに関しては「反貧困」、ワーキングプアに関しては「ワーキングプア」を読めば足りることは足りる。この2冊の方が実例も多く載っているし、よりリアルを感じられるかもしれない。

ただ、(2冊を読んだ後だからなのかもしれないが)本書には根底にある深い深い問題提起がある。

ーーーどこまでが自己責任なのかーーー

生活保護は市区町村の福祉事務所に勤めるケースワーカーが担う仕事だが、ケースワーカーがいかに「自己責任」について悩んでいるのかが、本書を読むととてもよく分かる。

本書が秀逸なのは、貧困の救済をただ訴えるのではなく費用と便益を考慮して効率的な運用をすべきだと主張していることである。

費用と便益を考慮した制度設計、というのは実は教育においてすでに構築されている。学校教育にかかる費用を個人ではなく国民で負担するというコンセンサスは、「費用と便益」の面から考えてそうすることが有益だからである。ミルトン・フリードマンはもっと効率的な制度を考えているがそれはまた今度。

貧困問題にはどうしても自己責任という言葉が付き纏ってしまって「費用と便益」という視点が失われがちだが、教育と同じように制度設計する必要があるのかもしれない。

1/28/2010

【IT】iPad


Appleから、タブレット「iPad」が発表された。自分は昨日の深夜から今日の早朝にかけて、ずっと情報を追いかけていた。何度F5キーを押したか分からない。

今考えていることを少し。

●買うか?

買う。多分、発売日に買う。

●3Gを付ける?付けない?

これが一番悩ましい問題だが、今は付けないつもり。
なので、Wi-Fiのみの16GBモデルを買う。
3G版はおそらくソフトバンクモバイルから6月頃に出ると思うが、3Gを付けると月々6000円払うことになる。
本体は$499なのに、この出費は高すぎる。iPhoneで十分だ。
もちろん通信料が破格の安値だったら考えるが、ソフトバンクモバイルに3G回線を安値で提供出来る余力があるようには見えない。

●そもそも何に使う?

米国とは違い、日本では電子ブック市場が遅々として広がらない。もはや日本語の電子ブック市場が広がるのを待つよりも、英語の電子ブックを読むしかない。
つまり、これを機に英語を習得する。これが一番の目的になる。
あと、今は家でiPhoneを使うことも結構多いので、Wi-Fiで色々なアプリを使う。


これとは別の話になるが、社会人になったらiMacを買おうと思っている。
iPhone+iPad+iMacのデジタルライフへの移行が、とりあえずの目標だ。

1/24/2010

【書評】最強の経済学者ミルトン・フリードマン---ラニー・エーべンシュタイン



タイトルの通り、経済学者・故ミルトン・フリードマンの障害を綴った伝記になっている。本人だけでなく、ローズ・フリードマンやフリードリヒ・ハイエク、ジョン・メイナード・ケインズ、ロナルド・レーガンなどフリードマンに関係する家族から経済学者・政治家とのエピソードが語られているため、フリードマンの思想よりもフリードマンがどのような環境で過ごしたのかが分かる内容になっている。

この本を読んでいた今週、フリードマンの故郷米国では興味深い出来事が二つ起こった。マサチューセッツ州上院選での共和党勝利と、オバマ政権の金融規制案だ。

フリードマンなどリバタリアニズムの思想に触れるまで、マサチューセッツ州で民主党が敗北する大きな要因になった、オバマ政権の進める米国の医療保険改革が進まない理由がよく分からなかった。保険会社の既得権を守るためだけかと思っていた(実際にそういった面もあるだろうが)。
しかし、米国の「小さな政府」を求める保守主義は個人の尊重や市場の効率性への信頼、政府への疑義など非常に厚い思想になっている。よく日本で批判される「市場原理主義」とか「強欲」などの汚く聞こえるものではないのだ。
また、「~原理主義」と言うと全て悪く聞こえるし、その定義もよく分からない。あと、資本主義で「強欲」を批判するのは宗教にしか見えない。

日本のマスメディアは民主党の小沢幹事長に対する東京地検特捜部の事情聴取に余りにも時間を割きすぎて、上記の出来事はおろかハイチの地震のことも報道しない。
米国での「小さな政府」「大きな政府」論争は日本にとっては他人事ではないと思うのだが。

1/21/2010

【書評】ハイエク―マルクス主義を殺した哲人---渡部昇一



「奴隷への道」を読む前に、そのエッセンスを記したという本書を読んでみた。「奴隷への道」が執筆されたのは今から66年も前の1944年だが、第二次大戦の最中にあってもハイエクは「個人の自由」がいかに重要かを考えている。

その個人の自由を侵害するものが、集産主義である。集産主義とは一般的には対照的に記述される共産主義と全体主義のことだ。「奴隷への道」は自由がいかに大切かを、集産主義への怒りで記している。そのことを本書が解説している。

本書についての評価は奴隷への道を読んだ後にしたいが、エッセンスを知るという意味では分かりやすかった。

1/20/2010

【日常】本を読むということ

ブログで書評をつけるようになってから、本を読む速度がかなり上がった。ここで一回、「本を読むこと」について自分なりに考えてみたい。

もともと、国語という教科は苦手だった。センター試験でも国語が一番正答率が低かったし、いま振り返れば国語が苦手だったから理系に進んだのかもしれない。
大学に入っても、すぐに本を読む習慣がついた訳ではない。ただ、「なかなか良いことが書いてあるから、読んでみれば」と父に一冊の本が渡された。それが、大前研一さんの「考える技術」

それまで大前研一さんのことは全く知らず、タイトルからすれば考え方のハウツー本にしか見えず、最初は興味を引かれなかった。自分の考え方を他の人に指図されることを毛嫌いしていたのだと思う。
それでも、「親から譲り受けた本だし・・・」と思って読んでみたら、いかに自分が甘かったかを思い知らされた。目から鱗の連続で、脳に高圧電流が走るかのように、世の中の見方を変えてくれた。

それから、色々な本を読み始めた。最初は自己啓発系が多かったと思う。それから、飲食店でアルバイトをしていたからサービス業に関する本なども読んだりした。そして、梅田望夫さんや佐々木俊尚さんの本を読んで、ウェブの世界にも興味が湧いた。技術のことよりも、どんなインターネットを通じてどんなサービスが実現出来るのかということについて、知るのが楽しかった。そしていまは、資本主義や自由主義、経済学などについての本をよく読んでいる。


本を読むことは、一種の授業のようなものだと思っている。自分は本に対して反論することは出来ないが、本は様々な知識や考え方を自分に提供してくれる。本の代金は授業料だと思えばいい。そして、色々な本を読むことでたまに正反対の主張などが出てくる。これが非常に面白い。自分の考え方を磨けるからだ。

あと、ときどき本当につまらない本にも出会ってしまう。無駄な授業料を払ってしまった気分になるし、なにより時間を無駄にしたと思ってしまう。そんなときは、「どうしてつまらないのか。」を真剣に考えることによって「自分ならこう考え、こう書く。」などを考えて授業料を取り返しにかかるか、授業料をサンクコストにするしかない。二つの方法のどちらにするかはその本の内容次第だが、学生であるいまは時間があるので前者を選ぶことのほうが多い。


これから先も、様々な本を読んでいくことになるのだろう。1年後にどんな本を読んでいるのか全く検討もつかないが、何か新しい本を読んでいることだけは確かだ。
そんな自分の些細な夢は、自分の部屋に巨大な本棚を置くことだ。

1/19/2010

【書評】サバイバルとしての金融---岩崎日出俊



極めて、まとも。外資系企業のM&A=ハゲタカという等式を頭のなかにもつ人がいたら、ぜひ読んで欲しい。

会社は誰のものか。
この問いに「株主や経営者、従業員、顧客などの利害関係者全体」と答えるステークホルダー型資本主義を、著者の岩崎氏は経営者の言い訳であり「村社会型資本主義」だと記している。
そもそも、日本の法律のどこにもそのような法体系は載っていない。会社はまぎれもなく、株主のものなのであり、経営者の使命は企業価値を上げることなのだ。そのための手段として、従業員の研修をしたり、顧客へサービスしたりするのだ。

本書は振り返ってみれば、資本主義の世の中ではごく当たり前のことが書かれている。そう思っていると、以前聞いた一つの言葉が頭を過ぎってきた。

資本主義は最悪のシステムだが、これ以上のものはまだ発明されていない。

確か、08年の金融危機の後に新聞かどこかに書いてあったものだったと思う。一字一句あっているかどうかは分からないが、本質をついた言葉だ。

1/18/2010

【書評】雇用崩壊---アスキー新書編集部



2009年4月10日に初版が出版された、そのとき物議を醸していた派遣切りや内定切りなどの「雇用崩壊」問題を論じている本である。
著者は民主党の衆議院議員から元「とらばーゆ」編集長まで7人いて、分量は新書で189ぺージのため、様々な視点から見れる反面、少し長いブログを読んでいるようでもある。

本書を読んでいて、一番目を引いたのが八代尚宏氏と安部誠氏のコントラストだった。元経済財政諮問会議議員の八代氏と、年越し派遣村実行委委員の安倍氏、と書けばどのような対称性かは分かるだろう。どちらを支持するかを問われれば、自分は八代氏を支持する。

不況期の雇用問題では、必ず「目の前のかわいそうな人を助ける」という大義名分から、ワルモノを懲らしめる勧善懲悪で問題を解決しようとする人が出てくる。
確かに、目の前の貧困を助けて、大企業を指弾するのはウケはいいかもしれない。でも、そういう「結果の平等」を求めることを社会主義という。

社会主義が「奴隷への道」であることは歴史が示した通りであり、日本はある面だけを見ればとても冷酷な資本主義の国なのだ。
自由よりも平等を優先する社会は、結果としてどちらも失うことになるのだ。


奴隷への道はフリードリヒ・A・ハイエクの著書の名称で、自由よりも~はミルトン・フリードマンの言葉である。

社会人になる前にちゃんと資本主義を勉強しようと思って、ハイエクとフリードマンの著書を購入したのだが、本書のようにコントラストを考えるというのは読書においてとても重要だ。なので、ハイエクにはマルクス、フリードマンにはケインズという対立軸で、様々な本を読んでいこうと思う。

参考:亀井金融相のメチャクチャな経団連批判 「ワルモノを懲らしめる」という「勧善懲悪」思考では、経済問題は解決しない---Zopeジャンキー日記

1/15/2010

【書評】傷つきやすくなった世界で---石田衣良



ある現象が名前という言葉を得ることによって、現実を加速させることがよくある。「格差社会」「勝ち組負け組」などの言葉を得た現象が、言葉を得た途端に現実を急加速させている。
格差社会の中で非正規雇用という負け組だけど、そうなったのは自己責任で、いつネットカフェ難民になるか分からない・・・ここ数年でよく聞く新語が現実をつくる傷つきやすくなった世界で、作家の石田衣良氏がエッセイを通じて、エールを贈る。

本書は「R25」の連載をまとめたエッセイ集。作家らしく、独自の視点と独自の言い回しで、タイムリーな話題を語ってくれる。

「打たれ強く生きる」も連載をまとめたエッセイ集だったため、本書と同様に一つ一つの話は字数に制限があった。
しかし、むしろその制約が話をコンパクトにまとめて読み易くしているし、城山三郎氏や石田衣良氏など書く側にとっても制約があるからこそ色んな選択肢の中から言葉を選んでいるのではないかと思う。

1/14/2010

【書評】戦後世界経済史―自由と平等の視点から---猪木武徳



高校生の頃、一番苦手だった教科は世界史だった。と、言っても1年生でしか履修していなかった(3年前くらいに、この事が問題になって後輩が期末試験後に1週間くらい集中講義を受けていた)が、理系に進むことを決めていたため、受験に必要ない世界史と生物はテスト前の付け焼刃の詰め込みで乗り切った思い出がある。

本書は世界史と言っても、「戦後」と「経済」に絞っている。それでも、新書にして400ぺージを超える分量であり、読み始めてから読み終わるまで足掛け10日もかかった。
自分の中学校までの学校教育における「歴史」は、主に出来事を年号や人物名でとにかく覚えていくものだったが、本書は人物名や出来事などの固有名詞をなるべく登場させず、副題である「自由と平等の視点から」読者にさまざまな歴史を問いかけてくれる。

戦後とは言え、対象は「世界」なので個々の事象に関しての記述は深いものではない。しかし、逆に言えばこの本を出発点にして歴史を考えていこうというキッカケを与えてくれている。

著者の最大の問い掛けは「自由」と「平等」という二つの理念はどのような形で両立されるのか、である。平等を追い求めた社会主義が戦後どのような経緯を辿ったのかは周知の通り(本書ではその理由もしっかり記載されている)だが、資本主義国家でも「法の下の平等」はなくてはならないものであり、二つのトレードオフをどうバランスさせるかの解は非常に難しい。

この本を読んで、もっと資本主義について(それとともに社会主義についても)考えてみたいと思った。ハイエクとフリードマンは、社会人になる前にしっかり読んでおきたい。

1/12/2010

【書評】打たれ強く生きる---城山三郎



amazonのリンクは文庫本だが、読んだのは父親から譲り受けたハードカバーの原著。なんと、自分が生まれた年に出版された本だ。
こういう古い本を読んで意味があるのかとも言えるが、本は自分が読んで情報を仕入れるものというより、逆に本の方から自分に語りかけてくれるものなのだと思う。

本書はエッセイ集で、昭和58年の日経流通新聞に掲載されていた「人生のステップ」+αで構成されている。
しかし、読んでいてそんな前に書かれたエッセイであることを感じることはほとんどなく、いま読んでも十分心に刺さる話ばかりだ。

一番心に残ったのが、「二つのとき」という話。

 稲葉さん(元産経新聞社 社長)はどう生きたか。
 「成るようにしか成らぬとはらをくくる。」
 絶望ではなく観念するのだ。
 ただ同じように難しい局面だが、
 あえて命がけでも挑戦すべき局面が、人生にはある。
 「いまここで立たなければ人生の意味はない。」
 
 「成るようにしか成らぬ」ときと「いま、ここ」というとき。
 この二つをはっきり見分けていずれも、
 はらをくくって対処してきた。そこに稲葉さんの今日が在った。

The Beatlesの「let it be」という曲があるが、これを初めて聴いたとき(たしか、中学校の英語の授業だった)は素直に「成るようにしか成らないのなら、努力の意味がないじゃないか」と思ったことをよく覚えている。名曲だと言われても、一種の「諦め」の曲だと思ったのだ。
しかし、「二つのとき」に出てくる稲葉氏は「成るようにしか成らぬ」ときは観念したという。

言うまでもなく、大事なのはこの「二つのとき」を見分け、使い分けることだ。おそらく、自分にもこれから色んな難しい局面が来るのだろう。そのときはこの話を思い出したい。

1/11/2010

【経済】「消費が嫌い」なわけではない。

ちょっと前に書店で「「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち」という本を見かけた。その時は買わず、今もamazonのほしい物リストに入れたままだ。

その「嫌消費」が最近ネットで少し話題になった。週刊ダイヤモンドに記事が載ったことが要因らしい。

「嫌消費」世代(2010年)-経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち

 「クルマ買うなんてバカじゃないの?」
 「アルコールは赤ら顔になるから飲みたくない」
 「化粧水に1000円以上出すなんて信じられない」
 「大型テレビは要らない。ワンセグで十分」
 「デートは高級レストランより家で鍋がいい」

80年代前半生まれの「バブル後世代」、つまり現在の25~30歳を松田久一氏は「嫌消費世代」と呼んでいるらしい。

それに対して、青木理音氏はこうブログに記している。

 今の収入を使いすぎない合理的な理由はいくらでもある。
 将来の収入が心配なのがその一つだ。
 今消費しないのは消費が嫌いだからではない。
 将来消費したいからだ。
 本当に消費欲自体がなくなっているなら
 収入に対する欲求も減るはずだが、
 収入に不満を持つ若者の数は増えている。

「嫌消費」なわけない---経済学101より抜粋。

また、狐志庵(ニックネーム)氏は「別の視点から」ということでこう記す。

 「贅沢」を目の当たりして、
 はじめてその贅沢に興味を持つのではないだろうか。
 誰かがしてるのを見ないと
 何がよいのかもわからないのではないか。
 そもそもその贅沢にかかる値段すら知らないのではないか。

見えない贅沢は想像できない---狐の王国より抜粋。

基本的には、青木理音氏の分析で間違いないと思う。青木氏もプロフィールからすると80年前半生まれかもしれない。

80年代前半生まれの人々の消費動向という視点は面白いが、「消費が嫌い」という結論付けには違和感を感じる。いま消費をしないのは、将来の収入に不安があるからであり、消費が嫌いなわけではないだろう。松田氏も将来不安には言及しているので、単純にネーミングの問題かもしれないが。

現在25~30歳の人々の将来不安を示しているのが、今の35歳の現実だ。これまた、まだ読んでいないのだが「“35歳”を救え」という本も話題になっている。これを書評したブログにはこうある。

 35歳に降りかかっている低所得化の現実と、
 それに起因して結婚できない人たちが
 増えている現実による少子化も重なり、

 日本全体として閉塞感が漂っています。
 将来は収入も上がりそうにないし、
 負担は増えそうだと考える人が多いため、
 将来に希望が持てないのです。

なぜ10年前の35歳より年収が200万円も低いのか-"35歳"を救え---投資十八番より抜粋。

25~30歳だけでなく、その上の35歳も将来に不安を抱えているのだ。これでは、「消費しない」ことは極めて合理的な判断に基づくものであり、もはや不思議でも何でもない。

ただ、もう一つ違う視点から考えてみれば「魅力的なものがない」とも考えられる。クルマ・テレビ・新聞などは、若者に買ってもらう工夫をしているのだろうか、とも思えてくる。個々で見れば、クルマは高性能・低燃費になり、テレビは大型化・高精細化、新聞は・・・(字体を見やすくした?)、と色々進歩しているのかもしれないが、それはあくまでの供給サイドの論理であり持続的イノベーションでしかない。つまり、若者がクルマ離れをしたのではなく、クルマが若者離れをしたという視点だ。
逆に、10年前の25~30歳はほとんど使っていなかったであろう携帯電話は人々の生活にとって必需品になっている。それは若者がケータイに近づき、ケータイも若者に近づいたからとも言えると思う。

このように、将来不安魅力的なモノが減ったことという様々な要因が考えられるため、25~30歳の消費動向は考えてみる価値がある。

1/10/2010

【経済】キヤノンMJの採用活動延期について思うこと

採用スケジュールに関する重要なお知らせ---キヤノンMJ

最近、キヤノンマーケティングジャパンが2011年の採用活動を一時中断することがネット上で話題になった。
上記の発表の要旨は以下のようなものだ。

 業績の見通しが立たず、
 2011年に新卒を採用する決定が出来ないでいる。

 なので、今までの見切り発車の採用活動は休止する。
 また、新学期がスタートする4月からの採用活動は
 学生から学ぶ機会を奪っているのではないかと思う。

 なので、1~3月期の業績を見た上で4月以降にお知らせし、
 採用活動は行うとしたら夏期休暇中にする。


これに対し、「若者はなぜ3年で辞めるのか」の著者で人事コンサルタントの城繁幸氏はブログでこう記している。

 ものすごくオブラートでくるんでいるけど、
 要するに先行きが不透明なので採りませんということだ。
 キヤノンだけ特別苦しいとも思えないので、
 これは単純に日本経済の見通し自体が
 相当ヤバいということだろう。
 キヤノン同様、ほとんどの大手企業は
 終身雇用死守を標榜しているから、
 同様に入り口を絞り上げてくるはず。 
 これから2階の椅子はどんどん減っていくだろう。
 「どうしても大手に入りたい!」という学生さんには、
 現状では可哀そうだけど諦めてねとしか言いようがない。
 日本型雇用というのはそういうものだから。

キヤノンマーケの採用担当者はそこそこ文才がある。---Joe's Labo

つまり、城氏は富士通の人事部出身なので「要するに採りませんということ」というのはやけに説得力がある。

民間企業が新卒を採用するかどうかというのはその企業の判断であり、自由だ。その判断基準はその時点での業績と今後の見通しであることは間違いない(CSRとかも一部関係あるのかもしれないが)。
よって、キヤノンMJの採用活動休止も発表文にある通り業績見通しが不透明であることが一番の理由になっている。

しかし、この発表が話題になったのはキヤノンMJが「従来の横並び採用活動」に疑義を呈したからだ。就職活動の早期化はもともと問題になっており、去年就職活動を経験した自分としては善し悪しはともかく目新しいことでも何でもなかったため、ハッキリ言って業績悪化の隠れ蓑に使ったとしか思えなかった。

就職活動の早期化の善し悪しの問題は置いておいて、少し考えてみるとキヤノンMJにとって、この時期にこの発表をすることはなかなか功名な戦略に思えてくる。

城氏の言うとおり、おそらくキヤノンMJは新卒を採らないだろう。
もしも、年明けからGWにかけて従来の採用活動を本格的にスタートさせてから、同じ発表するのでは風当たりが強くなってしまう。ならば、就活の早期化に疑問を投げかけるとともに、「出遅れます」とだけ発表しよう。と、なったのかもしれない。

真実はキヤノンMJの採用担当にしか分からないし、そもそも民間企業が新卒をとるかどうかはその企業の自由だ。
しかし、もし業績見通しが良かったら従来のまま採用活動をしていたのではという穿った見方をしてしまうと、客観的に見てなかなか上手い戦略だなと思った。

それともう一つ、これも良し悪しの議論は別にして今の大学生は就活がなかったとしても勉強しない、と思う。
どうすればいいのか、は再び置いておいてキヤノンMJが行うかもしれないように、他の全ての企業が夏季休暇期間に採用活動を行うとしても、夏に就活を控えた春学期に学生は勉強に身が入るとは思えない。むしろ、付け焼刃のTOEICとかを受けるようになって本来の自分の専門はないがしろになる可能性すらあると思う。

1/07/2010

【書評】ネットがテレビを飲み込む日



本書は2006年6月に発行されたので、月日としては3年半前になる。本としては決して古くはないが、「最近、YouTubeというアメリカのサイトが話題になっている」という記述を読むと急に大昔のことのように感じる。
そのくらい、情報通信技術の進歩は速く、人々の生活に浸透するのも速いということだ。

本書の第1章を執筆した山田肇氏は放送と通信の関係をウサギとカメに例える。その昔、双方向の通信と言えば電話であり「音声」を届けるのが精一杯だった。一方でテレビやラジオなどは一方通行の放送で、半世紀以上前の技術で音声だけでなく映像も届けることが可能だった。
その後、カメだった通信が急に速度を増した。それがデジタル化である。半導体・光ファイバーの技術の進歩、インターネットの商用化などで通信でも技術的には映像などを送れるようになったのだ。

しかし、身の回りの現状はどうだろう。技術的には可能であるにも関わらず、インターネットでテレビ番組のアーカイブなどを視聴することは出来ない。

これはなぜか。本書では、技術的に可能になった背景から著作権や新聞社・テレビなどのマスメディアの構造を解説している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小さい頃、自分の部屋に欲しくて欲しくてたまらなかったテレビは今やおそらく一日家にいても全く観なくて平気になってきた。それは他ならぬインターネットがあるからであり、RSSリーダーとTwitterで情報を集めているので新聞も読む必要がない。
そう思っていると、対称的なのは団塊世代の父親だ。父は毎日、日経新聞を読んでいるし夕食後はテレビを観ている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分の家庭を一般論に広げるのは乱暴極まりないが、本書では父と同じ世代かその前後の世代の方たちがメディアについて論じている。
しかし、論壇に登場しない若い世代の間では既にメディア界の地殻変動は進行しているのかもしれない。

1/06/2010

【書評】フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略



理論経済学では、完全競争下では価格は「限界費用」まで下がることを知る。アトム(原子)の世界では製品の価格は限界費用で下げ止まるため、フリーはマーケティング手法の一つだった。その代表例がジレット・モデルだ。そして、インターネットが登場しビット(情報)が潤沢になると限界費用はほぼゼロに等しくなるため、新たな「フリーミアム」モデルや「非貨幣経済」が登場した。

350ぺージにも及ぶ非常に長い本だが、「フリー」の歴史や例、誤解まで様々な要素が詰め込まれていて中身は濃い。持ち歩くのは大変だが、ビジネスマンだけでなく多くの人が読むべき本だと思う。この日本でフリーに関わらない人など、誰もいないのだから。

全て読む時間がなければ、第16章の「フリーに対する疑念あれこれ」と巻末付録①の「無料のルール」を読むといい。おそらく自分も、再び本書を開くときはまずはこの2つを読むだろう。

1/05/2010

【書評】満員電車がなくなる日―鉄道イノベーションが日本を救う



自分は高校に入学したときから、電車を通学で日常的に使うようになった。大学時代は毎日使っている訳ではないが、おそらく4月からの社会人生活では通勤で再び日常的に電車を利用することになるだろう。
もしも現在住んでいる神奈川県藤沢市から東京の有楽町(内定先起業の本社がある)まで通勤することになったら、ほぼ間違いなくJR東海道線を利用することになる。「朝の東海道線上り電車」と言えば沿線に住んでいる人だけでなくとも「満員電車」であることは想像に難しくないどころか、もはや既成事実だ。

本書では、その日本の首都圏において既成事実化した「満員電車」を無くすための術を「運行方法」「運賃」「制度」の面から考察している。技術的な記載も多少あるが、鉄道イノベーションの入門書としては過不足なく記されていて読みやすい構成になっている。同じ交通のことを題材にした西成活裕氏の「「渋滞」の先頭は何をしているのか? 」と共に交通について考えるキッカケを与えてくれる本である。

著者の阿部等氏は敢えて書かなかったのかどうか分からないが、本書に記された鉄道イノベーションを実践するための一番のハードルはコストでもなく技術でもなく「既得権益」だと思う。
もしも物流の長距離トラックをモーダルシフトさせることが利便性の面から可能になったとしても、それによって失われる雇用の問題が大きくクローズアップされ、業界団体・労働組合などからの反発は必至だろう。

1/04/2010

【書評】ソニーをダメにした「普通」という病









ハッキリ言って、さっぱり面白くなかった。
だから、amazonへのリンクも張ってない。

著者の個人的な感情から来る偏見が多すぎて、「歴代の偉大な」経営者に媚びて、今の管理部門やその他日本企業を馬鹿にしているだけだ。
この本を読んでも、何がソニーを「普通」にしたのか、どうすればソニーは復活出来るのかは全くもって不明確だ。「普通」になった現象が羅列されているだけで、復活への処方箋も創業者が指揮をとっていた時代へのノスタルジーとしか思えない。

また、ソニーの学歴不問を讃え、東大卒は「使えない」と言うのなら、著者の言う「使用価値」をどうやって採用時点で図るのかを示して欲しい。
学歴を問わない、ということなら松井証券の松井道夫社長のように「縁故採用で何が悪い」と言って、その理由を述べるべきだと思う。

1/03/2010

【書評】仕事は5年でやめなさい。



タリーズコーヒーを日本に根付かせた松田公太氏の仕事観、といった内容。特に際立った考え方を持っているのではなく、エピソードもあまり充実していないため、素早く読み終わってしまった。正直、値段の割に内容は薄い。また、タイトルからして辛口なのかと思いきや、ですます調の丁寧な言い回しで肩透かしをくらった。

おそらく、起業エピソードなどは前著の「すべては一杯のコーヒーから」に書かれているのだろう。実はアマゾンマーケットプレイスで同時に注文したのだが、前著の方が在庫切れで届かなかった。どちらかと言えば起業エピソードなどを知りたいので、今度読んでみようと思う。

1/02/2010

【書評】人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?



アンダーグラウンド経済の話というよりも、「税金」の話。門倉氏の持論である「支出税」も出てくる。
自分はまだ学生なので、所得税が掛かったこともなく年金もまだ払っていない。税金と言えば消費税なので、正直あまりピンと来なかった。

ただ、野球選手が個人会社と作る理由や長者番付に載る・載らないの仕組みは単純に興味本位で面白かった。
また、専門用語を用いても、その後に必ず分かりやすい例を記しているので読み易く、理解しやすい。

1/01/2010

【書評】スティーブ・ジョブズの流儀



新年、明けましておめでとうございます。

2010年も多くの本を読んでいきたいと思う。今まであまり読んでこなかった文庫・小説にも手を伸ばしてみたい。

今年の読了1冊目(読み始めたのは昨年)は世界で一番革新的な企業のCEO、スティーブ・ジョブズ氏を扱った本。時系列のドキュメンタリーではなく、スティーブ・ジョブズ氏とその周りの人々のエピソードを「流儀」ごとに記してある訳本。
原著にもあったのかどうか知らないが、各章の終わりに記してある「スティーブに学ぶ教訓」は蛇足だ。むしろ、エピソードを陳腐なものにしてしまっている。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」はいま読んでいる途中なのだが、〈無料で手に入るもの・情報〉をどうやって人々にお金を出して買わせるのか?という問いに対するスティーブ・ジョブズ氏の答えはiPodのビジネスモデルにも象徴される「顧客体験」だった。ファイル共有ソフトを探し回る代わりに、iTunesStoreで手軽さ・質・信頼性という価値を提供するのだ。
これは現在「フリー」に悩む企業にとって多くの示唆を与えるのではないだろうか。(すべての企業にとってフリーが戦略的な意味を持つ、という話は「フリー」を読んだ後に。)



個人的にはスティーブ・ジョブズ氏と言えば、プレゼンテーションが印象的だ。そもそも外国人のプレゼンテーションはあまり見たことないが、NTTドコモの山田社長やソフトバンクモバイルの孫社長の新製品発表会とは比べ物にならない。