2/28/2010

【書評】アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界



最後の4冊目。
一番最後に読んだからか、この本が一番印象に残っている。

アダム・スミスと言えば「国富論」と「見えざる手」だ。だが、国富論の前著「道徳感情論」のエッセンスと、スミスが生きた時代の背景を知ると、より深い示唆を得ることが出来る。

道徳感情論は「人間の心」に焦点を当て、人にとっての同感や幸福、野心などに言及している。どのようなメカニズムで人々は同感したり、称賛や非難をしたりするのかなどを研究している。

このような「道徳感情論」という土台があり、「国富論」も当時のイギリスという「一国」に限らず普遍的に全ての国々に当てはまる提言をしているからこそ、現代までその名が知れ渡っているのだと著者は指摘している。

【書評】ゲーデルの哲学ー不完全性定理と神の存在論



3冊目。
最近まで、ゲーデルという人物についてはよく知らなかった。何処で聞いたかも覚えてないし、なんとなく耳に残っているくらいだ。

本書の帯には「これで不完全性定理がわかる!」とあるが、一回読み通した自分は「なんとなくわかったような、よくわかっていないような」感覚にある。自分の中で上手く反芻できておらず、ぼんやりイメージは出来ているが他人に説明しようとすると上手く説明出来そうにない、そんな感覚だ。

最近はこのような類の、科学者の本や科学の本に興味がある。日本で理系の勉強をしてきた身として文系より有利だと思うのが、物理や化学の基礎が頭に入っていることだと思う。ただ、その分歴史などは高校受験レベルしかないと思うので、歴史は一度体系的に勉強してみたい。

【書評】戦略的思考の技術ーゲーム理論を実践するーーー梶井厚志



こちらが2冊目。
あと1ヶ月で大学生活が終わってしまうが、自分の専攻は広く言えば管理工学、狭く言えばゲーム理論になるのだろうか。専攻と言えるほど専門的に研究したわけではないが。

ゲーム理論を学んだことのある人にとっては、本書は物足りない印象を受ける。そもそも、そのような人々をターゲットにしている訳ではないと思うが。

ただ、ゲーム理論に特有の用語(囚人のジレンマ、など)を使わずに分かりやすく説明しているので、NHKの「出社が楽しい経済学」のように誰にでも分かる内容になっている。

【書評】現代の金融入門[新版]ーーー池尾和人



ヨーロッパ旅行で、合計4冊の新書を読んだ。まず1冊目がこの本。96年に出された旧版も数日前に読んだが、新版もスッキリとまとまっていて読みやすい。

金融危機が起き世界が不況に陥るなかで、証券化などの「金融技術」・「金融工学」などの負の側面が(特に日本で)独り歩きしてしまっている感がある。

しかし、池尾和人さんは証券化を自動車に例える。
自動車は基本的に生活を快適・便利にしてくれるものであり、もし人命が失われたとしても、自動車技術が「悪玉」になることはない。交通法規やインフラ整備を調整すべきである。
これと同様に、証券化などの金融工学も、それ自体ではなく規制監督やインフラ面を整備するべきなのだ。

2/14/2010

【書評】ウェブ時代をゆく─いかに働き、いかに学ぶかーーー梅田望夫



インターネットの発展とともに、リアルな世界と様々な軋轢や齟齬が生じるようになってきた。ただ、著作権やプライバシーなどの課題よりも「新たなテクノロジーの持つ可能性」にもっと注目していきたい。自分はずっと、そう考えてきた。

自分の著作権となるべき創作物もないし、プライバシーを犯されて被害を受けたこともない。いわゆる迷惑メールが来ることはあっても、自分にとっては大した問題ではない。

ただただ、「こんなことが可能に!」という光に注目し、自分の生活をどう変えてくれるのかを想像し、実際に使ってみることが楽しいのだ。

本書の著者である梅田望夫さんも「オプティミズム」を貫くことを宣言しているが、その点には自分も共感する。
そして、本書はその「オプティミズム」を貫くことを後押ししてくれる。ビジネスの側面は少ないが、貨幣以外にも価値があるのがウェブなのだ。

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いま自分はこうしてインターネットのブログを通じて、情報を発信している。厳密には発信というより、自分のメモに近いかも知れない。

おそらく、日本にいたら、PCや携帯端末などを通じてインターネットに触れない日は一年に一日もないだろう。それはそれで、最新の情報を常にキャッチし発信できる、またコミュニケーションが容易になったことを意味するが、この生活を10日間あまり止めてみようと思う。

具体的には、ただ海外に行くだけ。しかし、PCは持っていかないし、携帯端末もほとんど触らないようにする。また当然、TVや新聞など日本語メディアには触れない。日本語もほとんど話さない。

社会人になっても、海外に行くチャンスはある。ただ、ビジネスで行くとしたらPCなどを持っていくだろうし、家族で行くとしたら日本語を話すことになる。

だから、学生最後のこの機会に「インターネット無し」「日本語無し」の非日常に敢えて飛び込み、五感で色々なことを考えてみたいのだ。

【書評】現代の金融入門ーーー池尾和人



その名の通り、金融の入門書になっている。4月から金融機関に就職するということもあって、読んでみた。最近、新版が発売されたので合わせて購入した。新版の方は旅行に持っていこうと思う。

「そもそも金融とは」や「金融機関(主に銀行)の役割・機能」について平易に書かれているため、金融機関の関係者だけでなく、経済活動に関わる人なら(つまり、どんな人でも)読んで損はない本である。
出来れば、今の自分のような就職前の大学生は読んでおくべきだと思う。さらに言うなら、大学などの教育機関での金融教育が必要だと感じた。

運用各社、相次ぎ大学に投資講座---NIKKEI NET

このようなニュースが昨日あったが、経済活動にとって切って切り離せない「金融」については「資産運用は不労所得」「金を右から左に流すだけ」などと思わないように、学生のうちから教育を施す必要がある。

2/08/2010

【書評】Googleの正体ーーー牧野武文



「Googleはなぜ、利益の出ないサービスを開発するのか」という問いは誰しもが思うことだ。そんな疑問に本書は明快に答えてくれる。

Googleについて考えるときにいつも思うのが、「インターネットを使う人が増えれば増えるほど、Googleは成長する。Googleの成長がさらにインターネット人口を増やし、それによってさらにGoogleは成長し・・・」という好循環を(結果的にであるが)作り出したことがGoogleの秀逸さである、ということだ。

地球上でインターネットを使う人は、いま現在全人類の半分以下であり、ほとんどの人は先進国に住んでいる。新興国などに住むその他の大勢の人々のための、AndroidでありChromeOSなのだ。先進国ではどうしても対Microsoftや対Appleという軸でGoogleを見がちだが、まだインターネットに触れていない人々をターゲットにしているとなればGoogleのサービス全てが理にかなっていることが理解出来る。

これまでも色々Google本は読んできたが、「外から見た」本としては本書の完成度は高いし、読みやすい。一方で「内から見た」Googleを知りたければ「プラネット・グーグル」をお薦めする。

【書評】世界を知る力ーーー寺島実郎



ヨーロッパ旅行に行くことが決まったと父に知らせたら、翌日渡されたのが本書である。書店で何回か目にはしていたが、レジには持っていかなかった。タイトルで大風呂敷を広げる本はなかなか読む気にならないのだ。

だが、父から薦められて、無料で譲り受け(買ったとしても新書なので800円足らずだが)、ヨーロッパ旅行に行くということだったので読んでみた。

著者の寺島実郎さんは、さすがは三井物産で何十年も働いてきただけあって、歴史への造詣が深い。第一章の「日本とロシア」や、第二章の「大中華圏」、「ユダヤ人ネットワーク」の話などはなかなか面白かった。

ただ、第三章以降の日米関係やこれからの日本の話になると、少し首を傾げてしまった。
寺島さんは「21世紀に入っても、日本はれい線型の世界認識から抜け出せず、米国追従主義に陥りイラク戦争へ加担、金融資本主義の歪みまで共有してしまった。」「日本国民は、小泉構造改革で失われたものを見つめ、競争主義・市場主義を第一義とする自民党政治にノーを突きつけた。」と述べている。

この記述には同意出来ない。
邦銀はサブプライムローンなどを組み込んだ証券化商品にはほとんど手を出していなかった(というより、手を出す技術がなかった)。09年度決算で赤字に陥ったのは、証券化商品の値下がりよりも株安による保有株の値下がりや、景気後退による貸倒引当金の積み増しが大きかった。
また、そもそも自民党が
競争主義・市場主義を第一義としていたかどうかには疑問が残る。昨年の衆院選は競争主義へのノーよりも、自民党自身のオウンゴールによる国民の不信感が強いと思う。

また、「空虚なマネーゲーム」から「産業と技術の実体性」への回帰を訴えているが、これも同意出来ない。産業や技術を否定するつもりはないが、日本ではマネーゲーム自体が歪んでいるのではなく、資本市場が整備されていなく既得権益が分厚すぎるため、金融の役割が歪められてしまっているのだ。これでは、「マネー資本主義」という「マネーがない資本主義ってなんだ」と頭の上に???が浮かぶようなタイトルが付く番組を放送するNHKと変わらない。

2/07/2010

【書評】本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術ーーー成毛眞



初めて成毛眞さんの本を読んだ。成毛眞さんはマイクロソフト日本法人の元社長で、堀江貴文さんによると随分モーレツ営業をしていたらしい

成毛眞さんの主張は明快で「人と同じことをするな!そのために本を読め!それも様々なジャンルの本を同時に!」ということだ。人生は道楽と言う成毛さんにとって、人と同じ「フツー」の人生など苦痛以外の何ものでもないのだろう。まったく、同感だ。

「人と同じことをするな」というのは、古今東西色々なところで聞く。逆に言うと、それだけ人は他人と同じことをしがちで、同じことをしていることに安堵感を得ているということだ。



「人と同じことをするな」と聞いて思い出すのが、堀紘一さんだ。本書は、そのままタイトルになっているが、堀さんも「本を読む」ことを随所で薦めている。

上記の2冊とも、かなり読みやすい。文章でも口頭でも、読みやすく伝わりやすい言葉を使うためには本を読むことから始めるべきなのだろう。

2/04/2010

【書評】モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本---野口悠紀雄



本書のamazonでの書評欄はなかなか面白いことになっている。


8件のレビューのうち、★×4以上が5件と★×2以下が3件で中間は無し。この評価を分けたものは金融危機だ。

評価が高い人は「日本の問題は構造的で、これからもモノづくりで成長出来る訳ではない。金融危機が起こったからからといって、金融やIT産業を放置してはならない理由にはならない。」と言っていて、

評価が低い人は「金融やITに傾斜した国々の惨状を見れば、野口氏の提言がいかに危険か分かる。」と言っている訳だ。

個人的には前者とほぼ同意見だ。端的に言って、中国で作ればいいものを日本で作る理由は乏しいだろう。

 

また、この2冊を読んでいても、日本の製造業の競争力がいかに失われつつあるかが分かる。もちろん、日本の全ての製造業がダメになっていくとは思わない。
中国などに出来ない
ビジネスモデルを構築出来た企業は生き残っていくだろう。もしくはアップルなどのように、マーケティングやデザインなどに特化した企業も出てくるかもしれない。

一つだけ間違いないのは、新興国で出来ないことをやらなければ日本全体が沈没してしまうということだ。
確かにITバブルははじけ、金融危機も起こった。ITや金融に脆弱性があるのは明らかだが、ITによる生産性の向上や金融による資本の流動化こそ、これからの日本に必要なことなのだ。