2/08/2010

【書評】世界を知る力ーーー寺島実郎



ヨーロッパ旅行に行くことが決まったと父に知らせたら、翌日渡されたのが本書である。書店で何回か目にはしていたが、レジには持っていかなかった。タイトルで大風呂敷を広げる本はなかなか読む気にならないのだ。

だが、父から薦められて、無料で譲り受け(買ったとしても新書なので800円足らずだが)、ヨーロッパ旅行に行くということだったので読んでみた。

著者の寺島実郎さんは、さすがは三井物産で何十年も働いてきただけあって、歴史への造詣が深い。第一章の「日本とロシア」や、第二章の「大中華圏」、「ユダヤ人ネットワーク」の話などはなかなか面白かった。

ただ、第三章以降の日米関係やこれからの日本の話になると、少し首を傾げてしまった。
寺島さんは「21世紀に入っても、日本はれい線型の世界認識から抜け出せず、米国追従主義に陥りイラク戦争へ加担、金融資本主義の歪みまで共有してしまった。」「日本国民は、小泉構造改革で失われたものを見つめ、競争主義・市場主義を第一義とする自民党政治にノーを突きつけた。」と述べている。

この記述には同意出来ない。
邦銀はサブプライムローンなどを組み込んだ証券化商品にはほとんど手を出していなかった(というより、手を出す技術がなかった)。09年度決算で赤字に陥ったのは、証券化商品の値下がりよりも株安による保有株の値下がりや、景気後退による貸倒引当金の積み増しが大きかった。
また、そもそも自民党が
競争主義・市場主義を第一義としていたかどうかには疑問が残る。昨年の衆院選は競争主義へのノーよりも、自民党自身のオウンゴールによる国民の不信感が強いと思う。

また、「空虚なマネーゲーム」から「産業と技術の実体性」への回帰を訴えているが、これも同意出来ない。産業や技術を否定するつもりはないが、日本ではマネーゲーム自体が歪んでいるのではなく、資本市場が整備されていなく既得権益が分厚すぎるため、金融の役割が歪められてしまっているのだ。これでは、「マネー資本主義」という「マネーがない資本主義ってなんだ」と頭の上に???が浮かぶようなタイトルが付く番組を放送するNHKと変わらない。