11/30/2009

【書評】ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る



本書は2006年に執筆されているので、「景気回復期にワーキングプアという社会問題にスポットを当てた本」として読むべきである。
最近は、城繁幸氏や湯浅誠氏の本も読んできたが門倉貴史氏を含めた3人はそれぞれ焦点が異なっている。城氏:正社員、門倉氏:フリーター・ワーキングプア、湯浅氏:生活保護・ホームレスといったところだろうか(もちろん、明確に分けられている訳ではない)。

門倉氏はエコノミストの立場から、多くの統計データを用いて問題を考察する。また、統計データだけでは実態が分かりにくいのでドキュメントとして10人の方々のインタビューも載せている。
著者もあとがきで記すように、このドキュメントの受け取り方は人それぞれだ。自分としては、必ずしも全員が現代の構造的な問題からワーキングプアになってしまったというような印象は受けなかった。おそらく、戦後の日本において低所得者層はずっと存在したであろう。

著者は最後の章で「企業が副業を認めること」や「支出税」などを提言している。いずれも初版から3年経った今でも実現には遠い(副業はリーマン・ショック以降認める企業も多少出てきてはいるが)。

また、「人手不足が発生すれば自然と若者の雇用環境が改善する」というロジックは短絡的だと指摘している。それは企業が求める能力と学生の能力の間にミスマッチが生じているためだという。
この問題の一つの解決方法は「大学の専門機関化」だろう。医学部や児童学部のように、ある程度将来のコースが決まった学部や学科を設けて専門的に教育するようにすればある程度ミスマッチの程度は縮まるかもしれない。(大学の専門機関化には弊害も多々ある)